2021.06.30

7月号:日本の学校が地道に取り組んできた「非認知能力」の育成

費用対効果という話がよく財政を預かるところから言われます。そして、その根拠を求められ、数値化して示すよう言われます。しかし、学校教育においては数値化できるものとできないものがあることは誰もが知るところです。それは、「学力テストのスコア」「進路実績」などのように数値化できる『認知能力』と、数値化できない『非認知能力』があるということです。ところが、数値化できる『認知能力』の素地として、私たち教師は毎日の地道な教育活動においてエネルギーを費やしているのは『非認知能力』の育成になります。
『非認知能力』をわかりやすく表現すると「自分を律する力」「やり抜く力」「助けてもらう力」「教わる力」「聴く力」「リスペクトする力」「共感する力」「忍耐強さ」などであり、社会で生きていくための『生きる力』の素地になります。この『非認知能力』と基本的生活習慣が、働く際の生産性に良い影響を与えていると言われます。
この中の「忍耐強さ」については、よく勘違いされていることが多いように思います。「忍耐強さ」は、厳しくすることで育まれると想像する人が多いようです。でも、本当にそうなのでしょうか?確かにそういう状況で育まれる部分はあるかもしれません。でも、自分自身を振り返ってみると、たったひとりで歯を食いしばってがんばり抜いて何かを達成したりはしていません。必ず、誰かが苦しいときに話を聴いてくれたり、相談にのってくれたりしています。つまり、「忍耐強さ」の要因は、個人のパーソナリティーの部分より、その人の周りの人的なものを含む環境が大きいと言えるのです(研究では約1割が個人のパーソナリティーで、残りの9割がまわりの人的環境といわれる)。だから、この「忍耐強さ」を継続させるのは、その人のまわりにいる人たちのかかわりや思いやりになります。学校や学級、チームの雰囲気が、一人一人の忍耐強さを生み、それが教育力となり、成長の結果につながる。だから、入学式や1学期の始業式での私の話の中で、「人は人で磨かれる」という言葉を発信しています。
人は、周りの人に支えられながら一歩ずつ成長するものです。つまり、人と人の間に価値が生まれ、成長し、自信をつけ、社会で活躍する道筋をつかむという成長物語になっていくのです。また、関係性のたとえ話で『細胞の話』がおもしろいので紹介します。『生物としての私たちの個体ができあがるには、他の細胞との関係が重要な役割を果たしているというのです。受精卵は2つ、4つ、8つとどんどん細胞分裂していきますが、当初、細胞には分担が決まっていません。細胞が心臓になる、脳になる、筋肉になる、骨になるという分化は、最初から全部遺伝子にプログラムされているわけではないそうです。では、どうやって細胞は役割分担をしているのでしょうか。実は、胚という細胞の塊の中で、細胞と細胞が、互いに物質やエネルギーを交換し、情報交換をして自分の役割を決めているそうです。どんなものにもなれる可能性をもっているけれど、周りとの関係や相互作用がないと細胞は自分が何になるか決められないそうです。細胞は単体では生きられないのです。細胞が周りとの関係の中で自分の役割を決めて、その結果、私たち個体はできあがるのです。そう考えると、私たち個体もまた細胞と同じではないでしょうか。人もまた一人では生きていけません。人もまた、他者との関係の中で、自分の役目が決まっていくのです。そして、この他者との関係は、さまざまな学校での活動の中で学べるということです』
これからの学校行事、部活動等でこの考えをもつことは、自身の大きな成長へのきっかけになると思います。