資料室ジャーナル 第5号
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3建築群は対照的なものと映るかも知れない。ところでW.M.ヴォーリズの設計思想の根底には「日常生活の使用に対して、住み心地のよい、健康を護るによい、能率的建物を要求する熱心なる建築依頼者の需めに応じて、吾々はその意を良くくむ奉仕者となるべきである」(『ヴォーリズ建築事務所作品集』序言1927年)という健全で、本質的に合理的な心性を抱いていたことが知られている。そしてヴォーリズはモダン建築について「近代建築 Modern Architecture」(“The Omi Mustard-Seed”1935.10.)と題して、次のように述べている。「いわゆる“モダン建築”は二つの素晴らしい原則からはじまります。第一に建築デザインは装飾的であるより、機能的であるべきことです。第二は、世界に通じる新しいスタイルとなるものなのです」特別教室棟2階廊下中央にトップライトを収めた廊下、幅は約5mもある高校校舎 教室広く明るい窓、清楚な教室、明快さ(シンプリシティ)はモダニズムデザインの特色とするところと、1935年に記していた。そして日本は戦後期に至って新しい建築を標榜する時代が到来したのであり、ヴォーリズ建築事務所の新しい世代により、モダニズムの建築が生み出されている。その目覚ましい先例には1958年に建った国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館(登録文化財)があり、つづいてキャンパス建築群としてトータルに計画され、1960年に竣工した上曰佐キャンパスの建築群がある。それから64年を経た現在、当時のモダン建築は、近しい時代の歴史的建築と見られている。実際、近年には文化財として選出される建築には、1950年代の生きた建築は既に少なくなり、1960年代の建築、例えば上野の東京文化会館(1961年)、東京オリンピック施設(1964年)などが注目されている時代である。ヴォーリズ事務所によって進められていった。筆者の見学は僅かな時間であったが、ギール記念講堂を見た折の感動は忘れられない。モダンな外観の内に伸びやかな曲面をもつ空間があり、類例を見ないルーバー窓から入る光で彩られる豊かな空間があった。ヴォーリズの学校建築には、とりわけ講堂そしてチャペルに不思議なほど名作が多い。そこは1960年に完工し献堂された上曰佐キャンパスはヴォーリズ建築事務所時代の掉尾を飾る名作に違いなく、1961年6月には一粒社ヴォーリズ建築事務所が設立されており、1964年に開学された短期大学の校舎(一号館)、学生寮(カナン寮)はその後の西館小講堂大きな窓と折れ天井はモダンなデザイン1960年の上曰佐キャンパス

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