自然豊かな保育環境のなかでの「自由な遊び」とキリスト教 ― 福岡女学院幼稚園の理念と保育の方針 ―〔参考文献〕徳永徹他(1995)『学校法人 福岡女学院幼稚園 創立40周年記念誌』 福岡女学院幼稚園福岡女学院幼稚園HP「幼稚園の概要」https://www0.fukujo.ac.jp/kinder/overview/〔2023.5.12 参照〕福岡女学院幼稚園(1975)『園だより』(福岡女学院資料室所蔵)福岡女学院幼稚園(1976)『園だより』(福岡女学院資料室所蔵)谷村寛子(2021)「自然に育てられている子どもたち」(『幼稚園だより』No.5 福岡女学院資料室所蔵)4.福岡女学院幼稚園の理念と方針―子どもたちから見えてくるもの 福岡女学院幼稚園では、2012年度よりそれまでの「月案」から約2か月ごとに保育計画を見直していく「期案」という視点に替え、子どもたちの実際の姿を検証しながら、毎年、保育計画の改訂を行っている。こうした日々の積み重ねをもとに、教育課程を見直し、10年毎にその改訂に取り組んでいる。 2023年現在の福岡女学院幼稚園の教育課程には、「神様の恵みと守りの中で、子供が愛されている喜びを感じながら、主体的に生きる力をつける保育を目指す」という理念のもと、恵まれた自然環境のなかで「心ゆくまで遊ぶことを大切にする保育」を方針の第一に掲げられており、開園当初の保育の理念と方針は68年間変わらず今も大切に実践されていることがわかる。 本稿を執筆するため福岡女学院幼稚園を取材した際、子どもたちは自然豊かな園庭で遊びに没頭し、自ら編み出した遊びを自由に展開していた。園庭での外遊びを十分に満喫した後、礼拝の時間となる。礼拝は毎日行われているが、週に1度、福岡女学院キリスト教センターのチャプレン長によって奨励が行われる。幸いにもこの日、礼拝に参加することができた。聖書の箇所は、学院聖句でもあるヨハネによる福音書第15章5節であった。この5節のぶどうの木と枝の「つながる」という意味をめぐる問いかけに、子どもたちは自然とののかかわりという日々の経験をもとに自分の考えを大きな声で発表していた。 2021年8月の『幼稚園だより』には、園長の谷村寛子による「自然に育てられている子どもたち」と題する文章が掲載されている。そこには、「蝉とり名人」と自負していた園長が子どもたちの期待に反して蝉を取り損ねてしまい申し訳ない気持ちでいると、園児の一人が「「アブラ(あぶら蝉)は、逃げ足が速いけん!(仕方がない)」。蝉を逃してしまったことを責めるでもなく、自然の摂理がわかったようなこの慰めのようなつぶやきに、「自然に育ててもらっている!」と実感させられました」とある。このエピソードから、自然豊かな園庭で「自由な遊び」を日々展開してきた子どもたちが「自然の摂理」を自ら体得し、他者を思いやるキリスト教の教えをしっかり自分のものにしている様子がうかがえる。豊かな自然のなかで自由に「心ゆくまで遊ぶ」子どもたちは、確かにイエス・キリストにつながっている。68年間変わることなく掲げられた理念と方針は今も確かに受け継がれていることを、子どもたちが教えてくれる。5
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